紅茶の島に何が起きているのか――異常気象と肥料高騰から考える、スリランカ紅茶の現在
2025年は微増だった。それでも、安心できない
スリランカ紅茶の生産量が、ずっと右肩下がりになっている。そう言い切ると、数字と少しずれます。
スリランカ茶局の業界資料によれば、2025年の年間生産量は264.12百万kgで、2024年の262.69百万kgを1.43百万kg上回りました。[1] しかし、直近の月次データを見ると景色が変わります。2026年1月から7月までの累計生産量は153.14百万kgで、2025年同期の157.26百万kgを4.12百万kg下回りました。輸出量も143.51百万kgとなり、前年同期より7.34百万kg少なくなっています。[2]
さらに、スリランカ中央銀行の2026年5月の農業統計は、2026年4月の国内紅茶生産が前年同月比8.5%減だったと報告しています。理由として挙げられたのは、乾燥した気象条件と、前四半期から続く肥料投入量の減少でした。[3]
つまり、現在のスリランカ紅茶は「年間生産が崩壊した」というより、短期的な減産圧力が、天候と投入資材の両側から強まっている状態にあります。ここを正確に見なければ、茶園で起きていることを見誤ります。
茶樹は、天候の変化を帳簿のように記録する
茶は一度植えれば、毎年同じ量の葉を出してくれる作物ではありません。摘採できる芽の数は、雨、気温、日照、土壌水分、剪定、施肥、病害、労働力の組み合わせで変わります。
スリランカ茶局の2023年年次報告は、同年の生産について、8月の異常な干ばつと、9月から年末にかけての過剰降雨が悪影響を与えたと記しています。さらに、過去2年間に肥料を十分使えなかった影響で茶樹の生育が鈍り、小規模生産者では肥料価格の高さから施肥を控える動きも生産を抑えたと説明しています。[1]
乾燥と大雨は、単純な「雨が少ない」「雨が多い」という話ではありません。乾燥すれば新芽の伸長が鈍り、大雨になれば土壌が水を抱えすぎ、斜面では流亡や土砂災害の危険が高まります。摘採に適した日に雨が続けば、葉が茶園に残っても、工場へ運び、望ましい状態で製茶する時間が失われます。
2025年11月のサイクロン・ディトワによる豪雨・洪水・地滑りについて、World Weather Attributionは、スリランカの5日間の極端降雨が現在の気候でおよそ30年に1度の規模だったと評価しています。同時に、観測では温暖化に伴って同様の極端降雨が過去より強くなった傾向が示される一方、モデル間の不一致があり、個別の事象への人為的気候変動の寄与を一つの数字で断定することはできないとしています。[4]
この留保は重要です。「異常気象のすべてが温暖化のせい」と書くのではなく、極端な雨と乾燥が茶業のリスクを増幅し、気候変動との関係には確実な部分と不確実な部分があると書く。それが、現在の資料に対して誠実な態度です。
肥料は、単なる農業資材ではない
茶園にとって肥料は、収穫量を増やすための材料というだけではありません。茶樹を長く摘採し続けるための、生産基盤そのものです。
スリランカでは2021年5月、化学肥料の輸入が突然制限されました。世界銀行の研究は、この政策によって肥料輸入量が4か月以内に99%以上減少し、2022年の茶の収量が過去の気象条件を調整した推計で28.7%低下したと報告しています。[5] これは、2026年の肥料価格上昇とは別の出来事です。しかし、施肥が途切れたとき、その影響が一作で消えず、茶樹の生育と農家の資金繰りに残ることを示しています。
世界の肥料市場も、地政学と輸送の影響を受けます。2026年の世界銀行資料は、肥料価格が供給制約やエネルギー・輸送コストの影響を受ける状況を示しています。[6] 輸入に依存する国では、国際価格が上がるだけでなく、外貨、運賃、保険、国内流通、為替が重なって、農家が実際に払う価格になります。
ここで見落としたくないのは、肥料価格が上がったとき、茶園がすぐに全面停止するわけではないことです。多くの場合、最初に起きるのは施肥量を減らす、時期を遅らせる、優先する区画を選ぶ、借入を控えるという静かな調整です。数字に表れる生産減少は、その判断が積み重なったあとに現れます。
「肥料高騰が原因」と単純化しない
現在のスリランカ紅茶を苦しめているのは、肥料だけではありません。燃料費、輸送費、為替、賃金、労働力不足、老朽化した茶樹、植え替えの遅れ、製茶工場の維持費、茶価の変動が重なっています。
2023年の茶局年次報告では、スリランカ・ルピーの動きによって茶価が下がり、平均販売価格が2022年の1kg当たり1,234ルピーから2023年には1,171ルピーへ低下したと記されています。一方、輸出のFOB価格は2023年に1kg当たり5.41米ドルとなり、2022年の5.03米ドルを上回りました。[1] 国内の生産者が受け取る価格、オークション価格、輸出FOB価格、海外小売価格は同じものではありません。
この違いは、紅茶を考えるうえで非常に大切です。輸出額が増えているから、茶園が豊かになったとは限らない。輸出量が減っているから、すべての産地が同じように打撃を受けているとも限らない。標高、地域、所有形態、工場への距離、契約、摘採労働への依存度によって、同じスリランカ紅茶でも受ける影響は違います。
生産量を守ることと、暮らしを守ること
茶業の議論では、すぐに「生産性を上げよう」という言葉が出てきます。灌漑、耐乾性のある系統、土壌の保水力改善、マルチング、植え替え、機械化、製茶の効率化。どれも必要な対策です。
しかし、生産性だけを追えばよいわけではありません。茶園で働く人が生活できる賃金を得られるか。休みを取れるか。農家が次の施肥を買えるか。斜面の土壌を守れるか。輸出業者が品質への対価を確保できるか。これらを無視して生産量だけを追えば、茶樹も人も先に疲弊します。
サラトナがスリランカ紅茶を扱うとき、見ているのは液色や香りだけではありません。一杯の背景に、天候を読みながら茶園を維持する人、葉を摘む人、工場で製茶する人、運ぶ人、品質を見極める人がいます。気候と肥料の問題は、遠い国のニュースではなく、茶の価格と味と未来に直結しています。
私たちは、安い紅茶をどう考えるのか
安価な紅茶は、毎日飲めるという大きな価値を持っています。価格が高ければよい、という単純な話でもありません。
ただ、もし肥料、燃料、賃金、土壌、輸送、再植栽の費用が上がり続けるなら、紅茶の価格だけが昔のままでよいのかは考え直す必要があります。安さが、効率化によって生まれたものなのか。それとも、農家や労働者の低い交渉力、未来への投資不足によって維持されているのか。答えは、産地・契約・商品によって違います。
だからこそ、私たちが選ぶ紅茶には意味があります。産地が分かること。つくり手の仕事を想像できること。品質に見合う価格を考えられること。そして、飲み終えたあとに、次の一杯が続く仕組みを残せること。
スリランカ紅茶は、危機にあるから価値があるのではありません。厳しい環境のなかで、なお香りをつくり続けているからこそ、その価値を安さだけで測らない時期に来ています。
サラトナでは、スリランカの茶葉を産地と個性に目を向けながら選び、日常に無理なく取り入れられる紅茶として紹介しています。まずは一杯、いつもの飲み方で構いません。茶葉の向こう側にある天候、土、肥料、仕事の重さまで少し想像して飲んでみる。その小さな変化が、紅茶を選ぶ基準を変えていくかもしれません。
真実性評価――どこまで確認できるか
| 主張 | 評価 | 根拠と注意 |
|---|---|---|
| 2025年通年のスリランカ紅茶生産は2024年を上回った | 高 | 茶局・業界統計の264.12百万kg対262.69百万kg。速報・改訂の可能性は残る。 |
| 2026年1〜7月の累計生産・輸出は前年同期を下回った | 中〜高 | Tea Exporters Association / Forbes & Walkerの公表値。確定年次統計ではなく業界速報。 |
| 2026年4月の生産減に乾燥と肥料投入減が影響した | 高 | スリランカ中央銀行の2026年5月統計が直接記載。全国の全茶園に同じ影響とは限らない。 |
| 2021年の肥料輸入制限が茶の収量に大きな影響を与えた | 高 | 世界銀行研究が輸入急減と2022年の茶収量低下を推計。ただし政策全体の影響であり、単一要因ではない。 |
| 温暖化がディトワの降雨を何%増やしたか | 低〜中 | World Weather Attributionは観測上の増加傾向を示す一方、モデルの不一致から一つの帰属値を断定していない。 |
| 肥料価格上昇だけが現在の減産原因である | 低 | 気象、燃料、為替、労働、生産性、老木化、物流など複合要因。 |
| 価格を上げれば茶園と労働者へ自動的に利益が届く | 低 | 価格転嫁と分配の経路は契約・市場・組合・企業ごとに異なり、追加調査が必要。 |
参考文献
[1] Sri Lanka Tea Board, Annual Report 2023 [2] Tea Exporters Association Sri Lanka, Market Reports [3] Central Bank of Sri Lanka, Agriculture Sector Data Bulletin – May 2026 [4] World Weather Attribution, Increasing heavy rainfall and extreme flood heights in Sri Lanka and the Malacca Strait [5] World Bank Policy Research Working Paper 10642, Trade Policy and Access to Intermediate Inputs [6] World Bank, Commodity Markets確認日:2026年9月11日。2026年の数値には速報値・業界団体資料を含むため、確定年次統計と区別しています。
te.chatea.shopでは、サラトナが選んだ紅茶をご紹介しています。


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