紅茶の赤い色はどこから来るのか――テアフラビンとテアルビジンの生成、そして健康研究の現在地

赤銅色の紅茶と茶葉、紅茶ポリフェノールと製茶科学を示す風景

紅茶の赤い色はどこから来るのか――テアフラビンとテアルビジンの生成、そして健康研究の現在地

紅茶を淹れたとき、液体に明るい赤みが差す。時間が経つと、色は深い褐色へ移っていく。その変化を生む主役が、テアフラビンとテアルビジンです。

ただし、健康記事で最も大切なのは、ここから先です。試験管で働いた成分が、そのまま人の病気を予防したり治療したりするわけではありません。本稿では、製茶中の化学反応と、人を対象にした研究の証拠を分けて見ていきます。

目次

紅茶の「発酵」は、科学的には酵素的酸化

茶業界では、揉んだ茶葉を置く工程を発酵と呼びます。しかし、紅茶で中心となるのは、通常、微生物による発酵ではありません。揉捻によって細胞組織が壊れ、茶葉内部のカテキン類が酸素と酵素に接触して進む酵素的酸化です。[1]

生葉に含まれる代表的なカテキンには、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートがあります。ポリフェノール酸化酵素、ペルオキシダーゼなどの働きによって、これらが酸化され、次の反応へ進みます。

テアフラビンがつくる明るい赤み

テアフラビン類は、カテキン由来の酸化生成物が組み合わさってできる比較的低分子のポリフェノールです。代表的なものに、テアフラビン、テアフラビン-3-ガレート、テアフラビン-3′-ガレート、テアフラビン-3,3′-ジガレートがあります。

これらは、紅茶の水色に明るさと鮮やかさを与え、渋みや収れん性の印象にも関わります。テアフラビンが多いことを、単純に「良い茶」と言い換えることはできません。香り、濃さ、抽出条件、飲み方、茶葉の用途と合わせて評価する必要があります。

テアルビジンは一つの分子ではない

テアルビジン類は、テアフラビンより複雑です。従来は紅茶の赤褐色とコクを担う大きなポリフェノール群として扱われてきましたが、均一な単一化合物ではなく、構造の異なる複雑な混合物です。[2]

この点は重要です。「テアルビジンの化学構造」と一言で書くと、あたかも一つの分子の構造が完全に決まっているように見えます。実際には、生成経路と構造の多様性が研究対象として残っています。

テアフラビンとテアルビジンは、別々に働く二つの色素というより、酸化の進行にともなって連続的に変わる反応系の一部です。酸化が進む時間、温度、pH、酸素供給、茶葉の水分、揉捻の強さが、両者の比率と香味を左右します。

製茶条件が成分を変える

萎凋が短すぎれば、後続工程の原料状態が変わります。揉捻が弱ければ酵素と基質の接触が限られ、強ければ細胞が大きく壊れます。酸化が短ければ明るい香味が残り、長く進めれば色と厚みの方向が変わります。乾燥は酵素反応を止め、保存性を与えます。

CTC製法では、押しつぶし、引き裂き、丸めることで細胞破壊と抽出性を高めます。オーソドックス製法では、葉形と香りの層を残しやすい設計になります。どちらが優れているかではなく、目指す抽出、飲み方、販売市場が違います。

健康研究はどこまで進んでいるか

テアフラビンや紅茶ポリフェノールについては、試験管内や動物実験で抗酸化、抗炎症、脂質代謝、糖代謝などに関する作用が報告されています。また、紅茶を飲む人を対象にした観察研究や小規模な介入試験もあります。

しかし、ここには三つの段差があります。第一に、細胞実験で成分が反応した濃度と、日常の一杯で体内に届く濃度は同じではありません。第二に、消化管、肝臓、腸内細菌によって成分は代謝されます。第三に、紅茶を飲む人の食事、運動、睡眠、喫煙などを完全にそろえることはできません。

したがって、現時点で安全に書けるのは、「紅茶ポリフェノールの生理作用が研究されている」「一部のヒト研究で血管機能や脂質などへの影響が検討されている」というところまでです。「テアフラビンが高血圧を治す」「紅茶でがんを予防できる」といった断定は、研究の段階を越えています。[3]

抗酸化という言葉に注意する

抗酸化作用は、試験管内の化学反応として測定できます。しかし、食品の抗酸化能を測った数値が、そのまま人の体内で同じ効果を示すわけではありません。体内では吸収、代謝、排泄、他の食品との相互作用が起こります。

紅茶を健康食品のように売るのではなく、ポリフェノールを含む嗜好飲料として説明する。その方が、研究の現在地にも、飲む人の判断にも正確です。

ミルクティーと鉄の吸収

茶に含まれるポリフェノールは、食事中の非ヘム鉄の吸収に影響する可能性があります。鉄欠乏のリスクがある人、鉄剤を使用している人、妊娠中の人などは、紅茶を飲む時間について医療専門職へ相談する価値があります。

これは、紅茶を一律に避けるべきだという意味ではありません。飲む量、食事内容、健康状態、薬剤によって判断が変わります。この記事は個別の診断や治療の代わりにはなりません。

真実性評価

主張真実性解釈
テアフラビンはカテキンの酵素的酸化で生成する製茶生化学の基本的理解で支持
テアルビジンは紅茶の赤褐色や厚みに関わる中〜高複雑な混合物で、寄与の定量は難しい
テアルビジンは単一分子として完全に構造決定されている複雑な混合物として扱うべき
紅茶ポリフェノールに抗酸化作用がある試験管内・基礎研究では支持。ただし臨床効果と同義ではない
紅茶が特定の疾病を予防・治療するヒトでの因果的証拠が不足
紅茶ポリフェノールが血圧・脂質などへ影響する可能性があるヒト研究はあるが効果の大きさと再現性は限定的
紅茶は鉄吸収に影響する可能性がある中〜高食事中の非ヘム鉄、個人の鉄状態、飲用時期で変わる

参考文献

[1] Production mechanisms of black tea polyphenols

[2] Formation, structure, health benefit and sensory property of theaflavins and thearubigins

[3] Antioxidant Effects of Tea: Evidence from Human Clinical Trials

サラトナでは、紅茶の香味と製法を、科学的な背景とともに紹介しています。産地ごとの茶を試したい方は、te.chatea.shopをご覧ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次